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【清浄分散剤】なぜカルシウム型スルフォネートを採用するのか

  • 執筆者の写真: Verior
    Verior
  • 3月4日
  • 読了時間: 5分

更新日:3月5日

カルシウム型? スルフォネート?

もう単語からして始めから付いていけない方が大半だと思います。

が、私は書きます。きっと役に立ちますのでぜひ読んでみてください。


また、以前にみんカラでもスルフォネートについて書いたことがあるので気が向いたらこちらもどうぞ。


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【清浄分散剤の種類と、カルシウム型を採用する理由】


エンジンオイルが果たす役割にはいくつか種類がありますが、そのうちのひとつに「清浄・分散」という役割があります。

下の画像の通り、汚れを落として包みこんで、細かく分解してくれる役目です。

清浄剤の作用
清浄剤の働き

ちなみに清浄分散剤の効果が切れてしまうと汚れがそのまま残ってどんどん大型化していき、最終的にヘドロ状になってフィルターを詰まらせたりしますね。

↓ よく見るやーつ

オイル交換をまともにしないエンジン内部
オイル交換をまともにしない末路

で、その清浄分散剤の種類の一つがスルフォネートという名前です。(他にもサリシレートやフェネート等あります。)


スルフォネートにはいくつか種類があって、含まれる金属成分で種類が別れます。

当社が扱うアメリカの添加剤メーカーKingIndustries社のラインナップでは、

・カルシウム

・マグネシウム

・バリウム

・ナトリウム

・亜鉛

と、いっぱい取り揃えています。


その中で、なぜカルシウム型を選択しているのかと言うと、カルシウム型はこれらの中で特に疎水性が高いからです。

疎水、つまり水を弾きます。(=乳化を防ぎます)


エンジンオイルは、燃焼ガス(ブローバイガス)に含まれる水分の影響を受けますが、その際に疎水性が低いとオイルと水分が混ざって乳化してしまいます。

↓ よく見るやーつ

乳化したオイル
水分と混じり、乳化したオイル成分。

大体はキャップ裏くらいで済みますが、もし中のオイルまでこうなってしまうとオイルとしての潤滑性その他性能は当然下がります。


乳化しないで(混ざらないで)水分のままでいてくれればエンジンオイルへの悪影響は少なく済みますし、オイル自体の寿命(耐久性)も持続します。


その意味で、カルシウム型スルフォネートはこの水分に対する抗乳化作用が強いのが利点です。


ついでに、水分と混ざらないことで金属面にはオイルが残り続けて水分を寄せ付けないので、防錆効果も高いと言えます。


外部に晒される重機のグリースにカルシウム型がよく使われているのはこの理由です。

雨に当たったりしてもオイル(グリス)が乳化しないようにですね。



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【カルシウム型スルフォネートが避けられる理由 ~LSPI~】


現在、API規格の最新版がSP規格ですが、このSPで特に強く謳っているのが『LSPI』の抑制です。


LSPIとは、低速&"超"高圧環境が続いたとき、スラッジ中に含まれる添加剤成分が発する酸化熱の影響で、プレ・イグニッションという異常燃焼を起こす現象です。


LSPIの模式図

NA(自然吸気)エンジンでは起こり得ないのですが、昨今の直噴ターボエンジンだと燃費を重視して低速域からもトルクを出すために高圧過給を行います。


その際、圧縮工程で発生する熱によってプラグが火花を飛ばす前に自然発火してしまうというのです。ピストンが上がり切る前に。

早期着火(プレイグニッション)が起こると、コンロッドやピストン周りに過剰な負荷をかけてしまい、最悪は物理的に破損します。


そのLSPIを引き起こす原因物質として槍玉に挙げられているのが、清浄剤によく使われているカルシウムなのです。


なので、昨今のオイルでは清浄剤の種類として、酸化反応熱の低いマグネシウムのものを使うことも増えてきているようです。


が、かといってカルシウム型の清浄剤の配合が0になることもなく、これまで同様に配合されつつもSP規格を通しているようなオイルも多く流通しています。


例として挙げてみましょう。


ペンズオイル ウルトラプラチナム VS モービル1 フォーミュラ


日本でオイル分析の情報を上げている人なんて皆無ですから、どうしてもアメリカからの情報になりますが、有名なこのペンズオイルもAPI:SP規格品でありながらカルシウム分がしっかり入っていますね。


つまり、単純にカルシウム量だけでLSPIがどうこうは語れないということです。



これも以前にみんカラで書いたことがありますが、以前にLSPIとカルシウム含有量についての論文を見つけたことがあるので載せておきます。



LSPI発生グラフ
カルシウムとその他金属の含有量とLSPI発生頻度の比較実験

上の実験グラフによると、カルシウムにマグネシウムを混ぜるとLSPIの発生頻度が下がるのですが、そこへモリブデンを加えると発生頻度がまた跳ね上がっているのが分かります。


ちなみにモリブデンの酸化開始温度は約350℃。カルシウムの酸化開始温度も約350℃。

…ほうほう。そりゃね。


(ちなみにVeriorに添加している二硫化タングステンの酸化開始温度は450℃~500℃なので、だいぶ熱的に余裕があります。)



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【おわりに】


長くなってしまいましたがここまで付いてきていただけたでしょうか?(汗)


カルシウムの利点、そしてLSPIに対して絶対的な悪者ではないという点をお伝えしてきました。


ただ、それはそれとしても「マグネシウム型スルフォネート使えばいいじゃん」って思った方もいるかもしれません。


私も輸入しようと思って打診したのですが、KingIndustries社のマグネシウム型スルフォネートのCAS#No.が日本ではまだ認可されていない番号らしく、化審法に引っかかるので輸入不可との答えでした。


仕方ないので次回仕入時には熱に強いバリウム型を採用して混合してみようかな。

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