摩耗試験をやる意義
- Verior

- 4月15日
- 読了時間: 5分
更新日:4月17日
先日から始めたエンジンオイルの摩耗テストですが、金属の摩耗度合いを測ったところで、現実のエンジンに置き換えた場合に何を推し量ろうとしているのか。
そりゃ金属が減るよりは減らない方がいいに決まってる。
でも、エンジン内の
「どこが擦り減るとどう困ったことになるのか」
を具体的に考えたことはあるでしょうか。
漫然と思考停止してちゃいけないよ。
【摩耗が懸念される箇所】
まずはいつものストライベック曲線から話に入りましょうか。
これ、潤滑を考える際の基本中の基本なので、この3つの言葉の意味は頭に入れておきましょう。

この中で、金属同士が直接擦れあう領域が「境界潤滑」と呼ばれます。
混合潤滑領域でも金属同士の若干の触れ合いはありますが、グラフを見ての通り摩擦係数が最も低い領域ですので、摩耗という面で見ればほぼ考慮はいらないレベルかと思ってます。
で、境界潤滑が支配的な部位として
・ピストンリング(上死点&下死点位置)
・カム山
・ピストンスカート(上死点&下死点位置)
等が挙げられます。
私はこの3つの中で最も気にするべき部位がピストンリングだと思っています。
もちろん、カム山が減ればリフト量が減って微妙にパワーダウンするし、ピストンスカートが傷つけば摺動抵抗になってしまうでしょう。
でも深刻度で言えばピストンリング(特にトップリング)の摩耗のほうが重大性が高いかなって気がします。
【ピストンリングの合い口】
ピストンリングはピストンにセットする際にぐいっと広げなければならないため、円の縁(えん)が切れた形状をしています。(合い口が開いている)


つまりピストンリングには元々弱点として一部隙間が空いているため、完全密閉は不可能です。
そしてその隙間からブローバイガスが抜けていってしまいます。
アイドリング中のような低回転であっても、エンジンのオイルフィラーキャップを開けると「ポポポポポポ...」と空気の脈動を手のひらに感じます。
レシプロエンジンにとってブローバイ漏れはどうあっても完全に抑えることはできない宿命なのです。
そうは言ってもブローバイガスはオイルの天敵。極力抑えこまなくてはなりません。
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例えばオーバーホールなどの際、エンジンの消耗を計る方法の一つとして、ピストンリングの合い口をシックネスゲージで測ったりします。

ピストンリングが摩耗するほどリングが開いていき、つまり合い口の隙間も大きくなっていきますので、ここの測定値はリング交換の判断材料になっています。
そして合い口が開けば開くほどブローバイは抜けやすくなりますので、つまり圧縮も弱くなってしまいます。(パワーダウン)
ブローバイ汚染はオイルの劣化の第一原因と言っても差し支えないもの。
その悪循環に至らせないため、シリンダー壁⇔ピストンリング間の潤滑性能(耐摩耗性能)はとても大事になってきます。
【HTHS粘度と摩耗量の関係】
ついでの話題として、画像検索してたら興味深い図を見つけた。

SAEの粘度分類で定められていますが、
○W-16のHTHSは2.3以上。
○W-20は2.6以上。
○W-30は2.9以上。
○W-40は3.5以上(条件あり)。
○W-50と○W-60は3.7以上。
上のグラフを見ると、HTHSが低いほど高回転域での摩耗量が増えることが分かります。
特に顕著に分かるのが、HTHS2.6を境にそれ以下では摩耗量がぐんと増えること。
こわいねー。
逆に、それ以上のHTHS粘度であればグラフは横ばいで特に差がないことが分かる。
一つの目安として、HTHSは2.6が基準になりそうですね。
【トップリングは熱と圧力にさらされる戦場】
ピストンリングのうち、特にトップリングが摩耗してしまうと圧縮を保てなくなるのでここの耐摩耗性能が一番大事。
しかもトップリングは燃焼圧力を一番に受け止める場所なので、熱と圧力が半端じゃない。
(オイル中の粘度指数向上剤はここで炭化してスラッジ化します。)

しかし、ここでVeriorが採用している有機タングステンが本領を発揮します。
タングステンは(モリブデンと比べると)反応性が低いため、熱や圧力という外部要素を媒介して化学反応で被膜を作り上げます。
先日の摩耗テストで、荷重が増えていっても低摩耗を維持し続けているのは、有機タングステンによる被膜効果が間違いなく大きく働いています。(アルキルナフタレンの弾性流体油膜も。)
【終わりに】
ということで、オイルの耐摩耗性能はこういう意味があって大事なんだということが伝わりましたでしょうか。
「エンジンオイルに極圧試験は無意味」とはよく聞きますしその通りだと私も思いますが、「摩耗試験」は十分にやる意義があると考えています。
私の行う試験では荷重を変えて各30分間の摩耗テストを行っていますが、世界的規格であるASTM D4172では、シェル四球試験(WEAR)にて任意の荷重(標準で40kgf)で60分間の試験方法を定めています。
ASTM D4172 シェル四球試験:WEAR

この40kgfにどんな意味があるかは問題ではないようで(エンジン内の荷重を想定しているわけではない)、同条件で比較するための便宜的な数値みたいです。
なので私は荷重の軽い⇔重いまで5種類に分けて行うことにしました。
試験時間こそ半分に短縮していますが、見たい結果は同じ。
そして実際に実験してみると、いままで頭の中で描いていた理屈が試験グラフとしてちゃんと現れてくれたことに満足しています。
次以降の試験でも同じ傾向が見られればなおさら安心できますね。
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